東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)146号 判決
原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
(1) 成立に争いのない甲第七号証(特許庁商標課編の「類似商品審査基準」)によれば、同審査基準においては、【 】(四角カツコ)で囲つた見出しの商品に含まれる商品は、原則として互に類似商品であると推定するとしたうえ、商品区分第一九類台所用品、日用品の分類に関し、【調理用具、その他の台所用品(流し台、調理台を除く。)、清掃または洗たく用具】の見出しのもとに、一 調理用具(まないた、すりばち、すりこぎ、大根おろし、焼き網、あわたて器、シエーカー、かつお節削り器)、二 その他の台所用品(ぜん、盆、はし、はし箱、ようじ、ようじ入れ、ふるい、ざる、ひしやく、しやもじ、かん切り、せん抜き、ストロー、なべ敷き、家庭用浄水器、フオーク、スプーン)、三 清掃または洗たく用具(ほうき、はたき、ちり取り、ちりかご、バケツ、たらい、洗面器、洗たく板、洗たくばさみ、張り板、洗たくブラシ、たわし、くまで、ふきん、ささら)の各商品が列記されていることが認められる。
しかしながら、右の事実のみから、引用商標の指定商品から除外された「ブラシの類似商品」の範囲が右記載の全商品に及ぶと速断することは相当でない。前記のとおり、審査基準は【 】で囲つた見出しの商品は原則として互に類似商品と推定するに止まるのであり、前掲甲第七号証によると、審査基準はこれに続いて、「本審査基準は全審査官の統一的基準ではあるが、具体的、個別的に商品の類否を審査する際において、あるいは商取引、経済界等の実情の推移から、本基準で「類似」と推定したものでも「非類似」と認められる場合、またはその逆の場合が存することを認めざるを得ないのである。」として、推定に反する取扱いを排除する趣旨とはみることができないからである。もとより、審査基準は、行政庁としての特許庁における事務取扱い上の基準であるから、理由なく恣意的にその内容を変更することは許されないが、本件に関しては、後記のとおり、実質的理由のある場合であるから、審査基準の内容と相反する取扱いであることのみを根拠に、本件審決を違法とする原告の主張は理由がない。
(2) 商標法における商品区分に関し、商標法施行規則(別表)によれば、第一九類「台所用品(電気機械器具、手動利器及び手動工具に属するものを除く。)、日用品(他の類に属するものを除く。)」は、「台所用品」と「日用品」に大別され、台所用品としては、一 なべ類、二 湯沸かし類、三 調理用具、四 食器類、五 加熱器、六 食料または飲料貯蔵器具、七 その他の台所用品が列記され、日用品としては、一 清掃または洗たく用具、二 裁縫用具、三 浴そう類、四 その他の日用品が列記され、右「清掃または洗たく用具」の項に、「ほうき、はたき、ちり取り、ちりかご、バケツ、たらい、洗面器、洗たく板、洗たくばさみ、張り板、洗たくブラシ、たわし」の各商品が列記されている。
商標法において、商標の指定商品に関する商品区分は、商品の類似の範囲を定めるものではないとされてはいるが、この商品の区分自体は、商品の類否の判定に関しても、できるだけその指標となりうるような配慮のもとにつくられたものであることは否定しえないところであつて、右掲記の商品区分に徴すれば、「ブラシの類似商品」の範囲を、審査基準において、「洗たくブラシ」が含まれている「清掃または洗たく用具」の項に列記の商品の範囲に止まると解しても、あながち不合理とはいえまい。
商取引の実際において、「ほうき、はたき、ちり取り等」の清掃用具(日用品)と、「まないた、すりばち、すりこぎ、大根おろし等」の調理用具(台所用品)とは、共にその購買者の大半が一般家庭の主婦で占められる点で需要者層を同じくし、また、共にいわゆる雑貨店で販売されることがあるとしても、両者は、経験則に照らし、その製造業者を異にし、その用途も自ら異なるものであることが明らかであつて、社会通念上も別種の商品といいうるものであるから、これら商品に類似商標が使用されたからといつて、必ずしも一般的な商品の出所の混同を生じるとは、いい難い。
そうであれば、第一九類「台所用品(電気機械器具、手動利器及び手動工具に属するものを除く。)、日用品(他の類に属するものを除く。)(但し、ブラシ及びその類似商品を除く。)」とされている引用商標の指定商品中には、「調理用具、その他の台所用品(流し台、調理台を除く。)」に属する商品が含まれているとした審決を、誤りとすることはできない。
一方、減縮補正された本願商標の指定商品が、「調理用具、その他の台所用品(流し台、調理台を除く。)、清掃または洗たく用具、洋服ブラシ」であることは、当事者間に争いのないところであるから、本願商標と引用商標の指定商品は互に抵触する部分があるとしなければならない。原告の主張は理由がない。
(3) 前記のとおり、審査基準は、審判官が審査基準の定める原則と異なる取扱いをする余地のあることを当初から予定しており、その場合に、その具体的事由を請求人(原告)に通知しなければならないとする法律上の根拠はないから、原告の手続違反の主張も理由がない。職権証拠調べの場合に証拠調べの結果を当事者に通知しなければならないとされているのは、事実認定の基礎資料に関し当事者に対する不意打を避け、意見を述べる機会を保障する趣旨であつて、事理を異にするものといわねばならない。
右のとおりである以上、本件審決には原告主張の違法はないというべきである。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。